2、  行き慣れた店に入り、二人は食事を始めた。 5人の時はどちらかというとおしゃべりな他の二人の話を聞いている事が 多かったユノとチャンミンだ。  そんな二人だが今は言いたい事、聞きたい事、話したい事が山ほどあった。 しかし、口にすると又涙がこぼれそうで、又胸が苦しくなりそうで、 目の前にある料理と一緒に飲み込むしかなかった。 何を食べたのかすら、わからないままに二人は食事を終えた。 「チャンミナ…  どうする?帰る?? なんかまだあの部屋には戻りたくないな …」 そう言って、遠くを見つめたユノに チャンミンは近づき、笑顔で 「ボーリングにでも行きます?」と聞いた。 チャンミンの笑顔に救われたようにユノは 「そうだな!誰か呼んで、ボーリングにでも行くか」嫌な気分を振り払うように陽気に言った。 二人はお互いの友人と連絡をとり、ボーリング場に呼び出した。 事情を知っている友人たちは皆快くつきあってくれて、二人もすべてを忘れて 楽しむことが出来た。 しかし、時として、現実は残酷だった。 忙しい友人たちは1人2人と帰っていき、最後はユノとチャンミン2人だけとなってしまった。 「…  帰るか … 」 寂しそうに呟いたユノに、チャンミンは何も言わずにうなづいた。  ただいま 思わず、そう言ってしまった後に 「おかえり〜〜」 そう答える声が聞こえた気がして、チャンミンは視線を巡らせた。 が、もちろんそこには誰もいなかった。 「フッ」と小さくためいきをついたチャンミンの肩をユノがポンと叩いた。 これからはずっと二人なんだな… 忘れようとしても忘れられない、消えてしまえ!と願えば願うほどに甦る、5人での生活の想い出が ユノとチャンミンを苦しめた。  二人の憂鬱な気持ちとは裏腹に澄み切った空と気持ちの良い風が吹く、 爽やかな秋の朝だった。 「ヒョン〜 早く洗面所かわってくれよ〜!全く鏡大好きなナルシストだな〜。ユノヒョンは。 カッコいいのはわかってるからさぁ〜」と言いながら洗面所に入ると ユノが洗面台に両手をつき、がっくりと肩をおとして、うなだれている。 「どうしたの?ヒョン?」慌てて駆け寄ったチャンミンに ユノは「顔が…」  と言ってチャンミンのほうを向いた。  ユノの左半分の顔が歪んで、ひきつっている。 「え?なに?どうしたの???」 「治らないんだ…   ウッ」 堪え切れなくなりユノはチャンミンに抱き付いた。  泣いた所など見た事もなかった、強くていつも先頭をつっぱしていたユノが マンネ(末っ子)の僕に抱き付いて、声も出さずに泣いている… 「病院へ行こう。すぐに行けば治るよ。何でもないよ。絶対にすぐに良くなるよ」 「ストレスによる顔面神経痛ですね」医者は冷静にそう言った。 「顔面神経痛?先生どうすれば治るんですか?」ユノは必死になって医者に詰め寄った。 「ゆったりと、リラックスして今のあなたのストレスを無くすしか、方法はありませんね。 精神安定剤は出しておきますが」  チャンミンは診察室の後ろの方から医者と話すユノを見ていた。 いつも僕の前にいて、いつも頼りになって、ちょっとドジだけどそれでもいつもみんなを 引っ張ってくれて…  可哀想なヒョン…慣れないドラマに、…一番大事な東方神起がピンチで… あんなに小さくなって、いつも大きかったユノヒョンの背中があんなに小さいなんて。 泣いている。ユノヒョンの背中が泣いている。 可哀想なヒョン。 今回一番傷ついたのはユノヒョンかもしれない。 真っ直ぐで、純粋で疑う事を知らないユノヒョン。 こんな仕打ちで仲間が去っていくなんて… 責任感の強いヒョンだから、きっとすべて自分が悪いって思ったのかもしれない。 だからあんな顔になってしまって… 可哀想なヒョン…  沢山のスタッフに阻まれ、近くに行けないもどかしさにチャンミンはイライラした。  診察が終わり、ユノは医者に丁寧にお礼を言い、立ち上がった。 左側の顔をタオルで隠し、右目だけでチャンミンを探した。 それはきっといつもじっとユノを見ているチャンミンにしかわからない、表情だったのかもしれない。 スタッフが一瞬ユノの周りから散った。 そのすきにチャンミンはすぐにユノの左側に行き、腰に手を回した。 「大丈夫?歩ける?」 「チャンミナ…」すぐに来てくれたチャンミンにホットしたようにユノは呟いた。  病院から事務所に向かった二人を待っていたのは、何度となく繰り返される会議、 何一つ進展しない。    スタッフは出て行ってしまった3人への対応、マスコミとの対応、ファンからの問い合わせ対応 日本事務所への対応で、てんやわんやだ。  対照的にポッカリと空いてしまった二人のスケジュール。 忙しそうなスタッフを置いて、二人はレッスン場に向かった。  今までこんなに広いと感じた事はなかったのに… こんなに広かったんだなぁ 広々としたレッスン場の真ん中にドカッと座りながら 「チャンミン…」顔半分ひきつったままの痛々しいユノが 真剣な口調できり出した。 「俺は二人でやりたいと思ってる。誰かをよぶ事も一人づつになる事も俺は嫌だ。 今のままの二人では無理があるかもしれない… でも、俺はチャンミナ、お前と二人で東方神起を守りたいと思ってる。 これから頑張って努力して、二人でやっていけるように練習して、ずっとずっと 二人でやりたいと思ってる。これから先ずっとだ。  チャンミナ、正直に言ってくれよ。今ならどうにでもなるんだ。 嫌ならはっきりそう言ってくれればいい。 おまえはどうしたい?? 遠慮も我慢もしなくていいから、おまえはどうしたいか教えてくれないか?」 「ヒョン、今更そんな事聞くんだね。 ちゃんとわかってくれてると思ったよ」 「わかってる!わかってるんだ!けど、確認したいんだ。ちゃんとお前の口から 聞きたいんだ。もう去られるのはこりごりだ。 途中で消えてしまうなら、今はっきり決めて欲しいんだ」 「わかったよ。ヒョン。僕だって去られた方なんだよ。辛さは一緒だろ。 僕も頑張って、ユノヒョンと二人でやりたい。今更新しいメンバーとなんて無理だし、 一人でも無理だよ。 三人が抜けたって、僕とユノヒョンが頑張ってきた努力が消えるわけじゃないし、 絆だって切れたりしないだろ? 僕ら二人は前と何も変わらないんだから。 だからヒョン!一緒に頑張るよ。頑張ろうよ!二人でやっていこうよ。 先生(事務所社長)にはそう伝えようよ!」  チャンミンはまっすぐにユノの目を見て答えた。 ユノはチャンミンの手を上からギュッと握り、ウンウンと 何度も何度もうなづいた。  こうして、しっかりと決まった二人の気持ちに対し、会社の方針は中々決まらなかった。 つづく