チャンミンは憂鬱だった。日本へ向かうのも嫌になるくらいに憂鬱だった。 これほど、仕事で嫌だと思った事は初めてだった。 空港で前を歩くユノにすがるように 「ヒョン……」とそれだけを振り絞った。  少し離れていたが、チャンミンの切実な声に気づき、 ユノは後ろを振り返り、立ち止まった。 そして、チャンミンを待って、一緒に並んで歩きながら 「そばにいるから」そう囁いた。  コクリと頷き、軽く触れたユノの右腕に縋り付きたくなる衝動を押さえ、 ヒョンがいるから、大丈夫、大丈夫。 そう自分に言い聞かせ、鉛のように重い足を必死で進めた。  ユノは心配だった。 大丈夫だろうか?チャンミンはこんな状態だし…ちゃんとやれるんだろうか? 5人での練習もままならない状態で、ちゃんとしたものファンの皆さんに見せられるんだろうか?? みんな心配しているだろうな… なのにこんな姿で…  自分自身の不安も抱え、リーダーとしての責任と重圧、チャンミンの心配 色々な物がユノの肩にずしりと重くのしかかった。 しかしユノは”こんな事では絶対に負けない、絶対に” そう強く自分に言い聞かせ 真っ直ぐに前を見て、隣のチャンミンを気遣いながら 日本へと向かった。  控室に張り詰める異様なまでの緊張感。 笑い声などまるで聞こえない、今までとは全く違う空間だった。 大勢のスタッフに囲まれ、3人と2人は分かれさせられていた。 ”これじゃ話すら出来ないな…  いや逆にその方がよかったのか” ユノはスタッフの合間から見える、向こうの3人を見た。 ついこの間まで、手を出せば触れる所にいた3人が 今はとてつもなく遠い所にいる。 もう寂しいとか、戻ってきてほしいとか、そんな感情は全くなかった。 ただ…不思議だった。 ずっと一緒に走ってきた。 みな同じ想いで並んで走っていると、そう想っていた。 ずっと、このまま5人で並んで走り続けるんだと、勝手に決めつけていた。 それが自分の知らない所で、自分の知らない間に、道は分かれていた。 違う道に進んでしまったあいつら… それが良いとか悪いとかではなく、 ほんとに不思議な感覚だった。 「いつ分かれちまったんだろな…」 小さくフッと笑い、隣に座るチャンミンを見た。 ……最悪だった……  クリクリした瞳がキュートなチャンミンでもなく、 バッサリとファンまでを切り落とす、ブラックチャンミンでもない 覇気の全くない、虚ろな表情のチャンミン 今まで見た中で最悪のチャンミンだった。 …最強様が最悪だよ… 俺に振り返ってる暇はなかったんだ。 今はこいつを守らなきゃ。 ユノはチャンミンの手を強く握りしめた。 そして、チャンミンと向かい合い 「チャンミナ!辛いだろうけど、負けるな!! あいつらに負けたくないだろ!? だったら、頑張って歌いきろう。 俺たちにはこうやって伝えるしか、方法がないんだ。 だから、精いっぱい心を込めて歌おう! 今まで頑張ってきたすべてを出そう! な!チャンミナ」  優しいユノヒョンではなく、リーダーユノの 「負けるな!」という言葉に反応したのか、 負けず嫌いのチャンミンの瞳が一瞬ではあるが ギラリと光った。 コクリとしっかり頷くチャンミンにユノは少しホッとした。  そして二人の気持ちとは関係なく光続ける、 スポットライトに向かって、歩き出した。  5人の間にはくっきりと壁があった。 画面には映らないが、今までずっと5人を見てきたファンには分かる 大きな壁だった。 見つめ合って歌うパートも前を見て歌い、あれほど他の兄たちの事を 気にかけていたチャンミンがユノにひっつき、虚ろな表情で ひたすら前を見て、歌っている。  二人が一生懸命に歌えば、歌うほど、ファンは辛かった。 子犬のようにじゃれあい、戯れ合い、いつもいつも仲良く ひっついていた、自分たちの愛した5人の姿はどこにもなかった。 信じたくない映像だった。 これは嘘だ。 これは現実ではない。と誰かにそう言って欲しかった。 しかし、テレビの中にいる5人は確かに今の5人だ。  胸を引き裂かれるような痛み。 こんな痛みを得るために5人の揃った映像を見たかったわけじゃない。 …   なのに これが 現実  …    そんなファンの気持ちを知らずにただひたすら、一生懸命に歌う ユノとチャンミンだった。 皮肉な事に曲は別れの歌だった。 つづく