どうしたらいいのかわからない… いたたまれずに、ユノは台本を持って部屋を出た。 チャンミンの「ヒョン…」という悲しいつぶやきを背中で聞きながら。  ユノはソファーで台詞を覚えた。 何も考えずに一生懸命に台詞を覚えた。 すべてを忘れるために。  ユノが急に起き上がって、台本を持って出て行ってしまった。 ヒョン…  避けるように…僕が来たからって… ちくしょー。もうやめた!!絶対にもう追いかけたりしないぞ。 ヒョンの事なんか見ないからな!! 可愛い女の子探してやる!! マスコミに見つかったって、知るもんか!!! そうさ!僕はグラマーな女の子が好きなんだ!! よりによって、何も男を好きになんかならなくてもいいんだよ。 チクショー チクショー チャンミンはベッドに突っ伏して、叫んだ。  二人のすれ違う気持ちとは裏腹に、時は真っ直ぐに過ぎていく。  ウワ!夜が明けちまった。 集中したからやっと覚えられた。 ちょっと寝よ。 ユノはそっと寝室に戻って、ベッドにもぐりこんだ。  チャンミンはいつの間にか眠っていた。 ユノが戻ってきた事にも気付かなかった。  浅い眠りの中からチャンミンが先に目覚めた。 なんだ ヒョン戻ってたんだ。 チャンミンは横で眠るユノを見て、ホッとした。 「おはよう、チャンミナ」 後から寝室から出てきたユノが いつものように明るく声をかけた。 ……おはよう… しかし、チャンミンの返事は明らかに冷たかった。 今日から舞台練習が始まるという事もあり、 ユノはそのチャンミンの冷たい返事に 何のリアクションもとらずに支度をした。 「あれ?俺のご飯ないの?」 「知らないよ、自分ですればいいだろ」 「何だよ〜チャンミナ冷たいなぁー今日から舞台練習始まるっていうのにさぁ」 「可愛い彼女に来てもらって、作ってもらえばいいじゃない」 「何それ?どういう意味?彼女なんかいないのチャンミナが一番よく知ってるだろ」 ユノは仕方なく、そのへんにあった、パンをかじった。 「時間ないんだから〜、チャンミナ今日から当分一人だけど、また怪我しないように気をつけなよ」 「そんな事言われなくてもわかってるよ!白々しく僕の事心配してるような事言わないで欲しいね」 ユノはびっくりして、チャンミンの顔を見た。 「チャンミナおまえそれ本気で言ってるのか?」 しまった…  チャンミンは自分の嫉妬心からそんな事を口走ってしまった事を後悔した。 しかし言い出した言葉は止まらなかった。 「そうだよ、ヒョンは僕の事なんかほんとは気にもしてないんだろ。 わかってるよ。あの言い寄って来てた女の子とうまくいったんだろ? だから、僕と一緒に暮らしてるのが嫌になったんだろ? だから、ずっと冷たくなったんだろ!? だから、昨日だって目逸らしたんだろ!? だから、一緒に寝るのも嫌になって、寝室から出て行ったんだろ!? だから… だから…」 泣きそうな顔でそう叫ぶチャンミンをあっけにとられて見ていたユノだったが 「チャンミナおまえおかしいよ。どうかしてる…時間ないから行くよ」そう言った。 「ほら、やっぱり!!!そうやって逃げるんだ。もうここには帰ってこないつもりなんだろ!? 僕を置いていくんだ…  ヒョンはそうやって僕を置いて行くんだ… こんなに好きなのに…  僕がこんなにヒョンの事好きなのに知らん顔して置いていくんだろ!!!!」 チャンミンはそう叫ぶと部屋から出て行こうとした。 ユノはその腕をつかみ、引き寄せた。 そして、強く抱きしめ唇を重ねた。 「何するんだよ!同情なんか欲しくない!!」ユノを押しのけて離そうとするチャンミンを ユノはさらに引き寄せ、うるさく喚く口をふさぐように、もっと強く口づけた。 ユノの逞しい腕に背を抱かれ、与えられたくちづけにチャンミンは酔いしれた。 甘くてしびれるように甘くて…これ以上逃れる事など出来るわけがなかった。 「ヒョン…」 「ちくしょー時間ないし…  チャンミナ ちゃんとここに帰ってくるから 俺はおまえの所に帰ってくるから、必ず戻ってそばにいるから だから、ここに帰って待ってろよ! いいな!!チャンミナ! 俺を信じて待ってるんだぞ!!!」 そう言って、ユノはチャンミンの頭をクシャクシャと撫でて、出て行った。 ヒョン!!! つづく