チャンミンは車のシートに頭までもたれ、上を向いていた。 …  信じてたのに … 信じてたのに … ユノヒョン … よりによって、テミンだなんて…  女の子じゃなくて、テミンだなんて… ユノが必死で掴んでいた自分の腕に触れる。 ヒョン…  ヒョン…    チャンミンは張り裂けそうな胸を押さえ、 上を向いたままギュッと目を閉じた。  ユノはチャンミンの車が見えなくなっても、まだ茫然と立ちすくんでいた。 俺は取り返しのつかない事をしてしまったんだ… いったいどうすれば… 行き交う人々がユノをジロジロ見たが、ユノは一歩も踏み出す事が出来なかった。 「チャンミン、  ユノ君と喧嘩でもしたの?」 「え?母さん何で?」 シートにもたれていた頭をあげ、母親の方を見た。 「だって、あんなにユノ君必死で何か言ってるのに、あなた… なんだか怒ってたじゃない? …ねぇチャンミン  ユノ君、病室に真っ青な顔して飛んできてくれて、 それからずっと泣いてたのよ… あなたの手を握って… あんなにあなたの事心配してくれて… こんなにあなたの事を思ってくれる人と一緒に頑張ってるんだと思うと 母さん凄く嬉しかったわ」 そう言う母親から、チャンミンは窓の外へと目を逸らした。 流れる景色が涙でにじんでいる。 「ユノさん!ユノさん!!  あの 東方神起のユノさんですよね? サインしてください!!!」 ユノはそう言われて、ハッと我にかえった。 「僕大好きなんです。早く頑張ってカンバックしてください!」 そう言って、手を差し出す青年を見て、 そうだ!!こんな事をして、止まっている時じゃなかった。そう思い ユノはようやく顔を上げて、歩き出した。  ユノはどうすればチャンミンに許してもらえるのか、わからないまま練習に没頭した。 逢って、謝るしかない、と思いながらも、中々二人きりで会う事すら出来なかった。  チャンミンはしばらくダンスの練習は休み、歌の練習だけに参加していた。 しかも練習が終わるとそそくさとユノを避ける様に帰って行った。  ユノはテミンからのちょっかいも他のメンバーからの誘いも 一切断り、練習した。 コラボ練習が終わっても、また一人でレッスン室で踊り続けた。 家にも帰らず、事務所に泊まり込んでいた。  さすがにユノがそんな事を何日も続けていると噂が広まり、 チャンミンの耳にも入った。 「ユノヒョン…  そんな事してて大丈夫なのか… また熱出さないかな… 飯も食べてないんじゃないかな…」 チャンミンの心配な気持ちがドンドン膨らんでいった。  そんなある日、チャンミンは帰る間際にテミンと事務所の中でバッタリと出会った。 「チャンミンヒョン、こんにちわ。その後お加減どうですか?」 「テミン…もうだいぶいいよ…」顔も見たくなかった。 殴ってやりたい気分だったがそこは我慢して、チャンミンは冷静を装い返事をした。 「チャンミンヒョン、今ユノヒョンは一人なんですか? 最近ずっとここに泊まり込んでるって、噂ですけど…」 「ああ…  そうみたいだな。  俺はまだ実家に帰ってるから、知らないんだ」 「そうなんですかー ユノヒョン一人なんですね?」意味ありげにテミンはそう言い、 しばらく間をあけて、少しチャンミンに近づき 「この前はユノヒョンにこっぴどく振られちゃったけど、もう一回 チャレンジしてみようかなー」 テミンはチャンミンに聞こえるか、聞こえないかの微妙な大きさの声で、呟いた。 「じゃぁ、チャンミンヒョンお大事に」丁寧に頭を下げて、テミンは去っていった。 …なんだ?あいつ。どういう意味だ?…あれは俺を挑発してんのか?… チャンミンは真意の見えないテミンの態度にイライラとしながら、家に帰った。  ユノはレッスン室で一人ダンスの練習をしていた。 たまにふと思い浮かぶチャンミンの笑顔に、押しつぶされそうになりながら 寂しさをこらえた。    チャンミンは実家のソファーで横になり、ラジオのように流れる 終わりのない、母親の話を聞き流しながら、テミンの言った事を思い出していた。 …この前はこっぴどくふられちゃった…  確かにそう言ってたよな… でもヒョンは帰らないかもしれない  って…  どういう事だろ… … ユノヒョン…  今日も一人でダンスの練習してるのかな… … ちゃんと飯食ったのかな… …  あんなとこで寝てたら、疲れとれないのに…  チャンミンは鬼気迫る表情で練習していた、ユノの姿を思い出した。 …   ユノヒョン  倒れちまうよ  …… ……・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…  チャンミンは決心したように立ち上がった。 「どうしたの?チャンミン」 「……ユノヒョンが待ってるんだ」 「今帰ってきたばかりじゃないの」 「母さん、僕もう大丈夫だから、ヒョンの所に帰るよ」 「チャンミン!そんな急に!!どうしたのよ… ユノ君がどうしたの?」 「…ヒョンは僕がいないとダメなんだよ」 心配気な表情の母親を振り切って、チャンミンは家を出た。    チャンミンはいつも二人で練習する部屋に向かった。 深夜事務所を歩くチャンミンの靴音だけが響いている。 キュッ   キュッ   キュッ …ヒョン… キュッキュッキュッキュッ  速まる靴音 タッタッタッタッタ ユノが一人で踊るレッスン室の前に着いた時にはチャンミンは軽く肩で息をしていた。 小窓からそっと中を覗く。 やはり、一人汗だくになって踊るユノがいた。 ……  ユノヒョン  こんな遅くまで 1人で … 静かにドアを開ける。 大音量で流れる二人の曲が、ドアを開ける音を消した。 一心不乱に踊るユノはミラーに映らない、チャンミンに気づかない。 入口に立ち止まり、ユノを見つめるチャンミン 激しく踊るユノの足が絡まり、踊りが止まった。 両膝に手をつき、ハァハァと息をするユノ。 そして、大の字に寝転がった。 チャンミンはまだ入り口から動けないでいた。 その時、大の字で寝転がるユノの左腕があがり、左手をかざして見つめた。 「ヒョン!!!!」思わず口に出たチャンミンの声に、びっくりしてユノは体を起こし 入口の方を見た。 逢いたくて、逢いたくて、逢いたくてたまらなかったチャンミンがそこにいる。 「チャンミナ!!」 「……ヒョン……」 チャンミンはそう言いながら、ゆっくりとユノに近づいた。 ユノはびっくりして、立ち上がれなかった。 ゆっくり近づくチャンミンを見つめる。 …  チャンミナ  どうして、こんな時間に… 不安な気持ちを口に出せずに、ユノはじっとチャンミンを見た。 「こんな遅い時間まで、一人で何やってるんだよ」 少し怒ったような口調でチャンミンは言った。 ユノは意味がわからず、ただじっとチャンミンを見ている。 チャンミンはユノに手を差し出し、 「飯食ったのかよ!? ちゃんと寝てんの?」 いつもよりも乱暴な口調で言う。 ユノはチャンミンが差し出した手を掴み、立ち上がった。 「どうせ、部屋だってグチャグチャのままなんだろ? まったく、ヒョンは僕がいなきゃ全然ダメだね!」 「チャンミナ!」そう言って、チャンミンを抱きしめた。 言葉にならない。何か言えば泣いてしまいそうで。 ただユノはチャンミンを強く抱きしめた。  …  ユノヒョン…  逢いたかったよ…  ずっとずっとこうして欲しかった。 そう思い、ユノを抱きしめた。 凍りついていたチャンミンの心がようやく溶けだし、 ユノの体温で温められていった。 つづく