駆けてゆけ、血と憎悪の海を。



Jump off






始めようぜ。呟けば、光りだす両耳のピアス。

黒い牙型に見えるそれは、黒く見える程濃い赤色のピアスだった。
応じて赤い瞳も光る。伸ばした右腕も赤い光に包まれる。
そして、
指先から肩へ、腕に染み込み侵食する"黒"。影のように光のない黒だった。腕全てが染まりきった瞬間、その輪郭が"変質"する。
倍以上に巨大化した手の平。黒光りする大きな爪。艶めき照り返す漆黒の毛並み。
それはもう人間の腕ではない。
黒い獣の腕へと、レイドの腕は変質していた。

たっと地を蹴るその音が、聞こえた頃にはもう眼前。
横薙ぎに薙ぐ。骨も肉もいっしょくたに砕け散る、その音色にレイドは牙を見せ笑った。
低い姿勢で駆けまわり、次々と襲いかかっていく。抉れた肉塊が次々と山を成した。巨大な腕が一振り当たれば人体は脆く砕け散る。血に濡れた五本の爪は、猛獣の歯のようだった。
切るのでも潰すのもない。喰らいつき、噛み千切る。
飛び散る黒い粘液を浴びながら、開いた瞳孔は爛々と光っていた。

01:Raid [stone/Red]




目を閉じた。スカーフを留める石飾りが緑に光る。
光る琥珀色の瞳を開いたその瞬間、少女は風と成る。

たたたたたんっ、とそこら中から靴音がした。地面から壁から柱から。今どこで鳴ったのかわからない、そんな戸惑う背中にエレジアは降り立つ。
振り向こうと思うより速く。その身は針山と化した。
鋭く細い亜麻色の針が、皮膚を埋め尽くさんばかりに刺さっている。
死体が崩れ落ちたその向こうを既にエレジアは見据えていた。愛らしい二つ結びがぴょこんと揺れ、そこから無数の針が飛び立っていく。取り囲む大の大人達が次々と針山になった。そう、この針は元は髪の毛なのだ。
剣を振りおろしても銃を放っても、そこに既に彼女はいない。腰より低いその小さな体は、大人たちの隙間をすばしっこく駆け抜けた。

そして。一際鋭い靴音が鳴る。
音を見上げれば、壁を蹴った少女が高く飛び上がっていた。

跳ぶエレジアを見上げる大人を、
エレジアは宙から見下ろしていた。
小さく見える大人達。そして攻撃を放つまでの間が、ひどくスローモーションな大人達。
無垢なエレジアのその笑顔に、ほんのわずかな歪みが混ざる。
小さな腕を大きく広げ、辺り一面に針を、振り撒いた。

02:Heresia [stone/Green]



風を切り、長い尾のように三つ編みがたなびく。
その先には緑色の石が。眼前では黄色い眼光が。鋭利に光っていた。

それを視認した瞬間に事切れた。
その喉に深々と槍が刺さったからだ。白目を剥いた死体を冷徹に見据えると、躊躇いなく槍を薙いだ。幅広の刃である先端が首を刎ねる。
一気に噴き上がった血飛沫の中、バイジャは次の獲物を、ひた、と見据えた。
当然相手も反撃するが、相手が構えるよりバイジャが懐に飛び込む方が速い。
薙ぐように一閃振り回せば、辺り一帯を刃が切り裂く。鋭い痛みにうろたえるその眼前に、もう槍が振りあがっている。
心臓を、一突き。
崩れ落ちた相手を見据え、そして辺りを見据える。たじろぎ逃げようとしているのが、気配でわかった。

目的の者は既に仕留めた。それならば。思わず浮かんだ甘さを読みとったのか、敵勢は蜘蛛の子のように散っていく。
逃げる背を見送ろうとしたバイジャの脳裏で、声がした。

『―――色違いも、其れに与する者も、』

「―――…"始末せよ"。」
黄色の瞳が再び光る。取り憑かれたような、色で。

03:Vaija [stone/Green]




その瞳は月のように。
そのネックレスは夜空のように。光る。

腕を伸ばし手を広げた。ただ、それだけ。それだけの所作で喧騒は息の根を止める。
地面から湧いた大きな蔓が、一人残らず絡め取ってしまったからだ。
青々とした、丸太のように太い蔓だ。それが巨大な生き物のようにぐにゃりと絡みついていた。大きさに違わぬ力の強さで、どれだけ暴れてもびくともしない。
その中心でアルヘオは微笑んでいた。
ひややかに細めた黄色の瞳で、ゆっくりと全員を見回した。

「…悔い改める気はあるかな?」
にこ、と柔らかに微笑む。
「己の罪を認め、己の存在を恥じ、自らこの世から消え、世界に貢献する気はあるかな?」

穏やかに微笑んだまま、答えを聞いた。予想と少しも違わない答えを。
「そう。」
目を閉じる。そして、す、と薄く開いた。

「残念だよ。」
地響きと轟音が轟いた。
地表から無数の岩が撃ち放たれ、捕われた者達を粉砕した音だ。
仕事を終えた蔦はするりと解け、アルヘオの足元へと吸い込まれていく。アルヘオは振り向く事なく視線すら向けず、ゆっくりと歩き去った。

04:Alheo [stone/Indigoblue]



fin.