全裸の王様
●王の部屋
ナレ 「あるところに、
容姿端麗、頭脳明晰、
完全無欠の王様がいました。
彼の力で国は栄え、
他国の侵略を跳ね除けていました。
そんなすばらしい国、素晴らしい王でしたが、
一つだけ問題がありました。
それは……」
鏡の前でポーズを決める王様。
王 「う〜ん、いいねぇ、ビューティフル!
(ポーズを変えて)お、これもエクセレント!
(ポーズを変えて)ん〜、これはいまいちか?
(ポーズを変えて)ん!? これは良い!
近年まれに見るセクシーさ!
う〜ん、我ながら惚れ惚れしてしまう」
王の部屋に入ってくるメイド。
メイド 「王様! 服を着てください!」
ナレ 「そう、王様は露出狂でナルシストだったのです」
タイトルコール。
●謁見の間
謁見の間にいる王様とメイド。
メイド 「王様、いい加減に服を着てください」
王 「嫌だ」
メイド 「何でですか!」
王 「いいか?
余は自分で言うのもなんだが、美しい。
それもこの世で最高の美しさだ」
メイド 「はぁ」
王 「そして、王は国民に様々な物を与えなければならない」
メイド 「はぁ」
王 「余の美しさも国民に与えなければならない」
メイド 「はぁ」
王 「だが、余の美しさは他人には分け与えれない」
メイド 「はぁ、それでなんです?」
王 「だから、せめてもと国民に余の姿を見せるのだ。
余すところ無く!」
メイド 「何でそうなるんですか!
って言うか、余すところ無く見せすぎです!
せめて股間を隠してください!」
王 「ふ、馬鹿を言うな。
そこを見せてこそ気持ちいい‥、
ゴホン、国民の為になるのだ!」
メイド 「なりませんよ!
完全に王様の趣味じゃないじゃないですか!
ほら! この服を着てください!」
王 「何だ? そのダサい服は」
メイド 「王家御用達の職人に作らせた服です」
王 「嫌だ! そんなダサい服、余の美しさを損ねる!」
メイド 「む〜‥、ならこちらは?」
王 「はっ、センスの欠片も無いな。
余に恥をかけといっておるのか?」
メイド 「じゃぁ、これは!」
王 「デザインが古臭すぎる。
ゴテゴテした装飾なんか吐き気がする」
メイド 「も〜!
どんな服なら着てくれるんですか!」
王 「……うむ、余の美しさが損なわれない様な服なら、
着てやらん事も無いがな。
はっはっはっはっは……」
メイド 「……解りました。
王の美しさが損なわれない服なら着てくれるのですね」
王 「うむ、そんな服があればな」
メイド 「解りました。
国にいる職人たちに、王様専用の服を作らせましょう。
その中で王様の美しさを損ねないものがあったら、
それを着てください」
王 「いいだろう。
美しい服、楽しみにしておるぞ」
暗転。
しばらく間をおき、
再び王の部屋。
そこには様々な服が並んでいる。
ナレ 「その後、国にある御触れが立ちました。
『王が着たがる服を作った者に賞金を与える』と。
国民はこぞって服を作り城に服を持っていきました」
部屋に来る王とメイド。
メイド 「どうですか王様!
これだけの服があれば、
どれかはお気に召す筈です」
王 「ふむ、良くぞこれだけ集めたものだ。
誉めてつかわそう」
メイド 「ありがとうございます」
王 「だが、これだけあったとしても、
余が気に入らなければ意味は無い」
メイド 「ぐっ、確かに‥」
王 「ふふふ、余の気に入る服が見つかればよいな」
メイド 「ぐぬぬ、(小声で)絶対に服を着せてやる」
王 「ん? 何か言ったか?」
メイド 「いえ! 何にも言っておりません。
それより、この服などはいかがですか?」
王 「ん〜、いまいちだな。
腰の部分にセンスを感じるが、他がまったくダメだ」
メイド 「なら、これなんかは?」
王 「おお、これはなかなかセクシーな‥。
だが、セクシーなだけだな。
エレガントさが無いし、装飾の派手さが足りない。
却下だ」
メイド 「じゃあ、これでどうですか!」
王 「ダメだダメだ。
こんな古臭いのじゃ、余の美しさを腐らせる。
もっと革命的な美しさが無いとな」
メイド 「では、これなら!」
王 「ん〜、不合格」
メイド 「これは!」
王 「却下」
繰り返し……
しばらく、メイドと王の掛け合いが続く。
段々フェードアウトしていく。
少し間を空け。
メイド 「はぁ、はぁ、はぁ……」
王 「ふぅー、国民全ての力をもってしても、
余を満足させる服は現れなかったか……」
メイド 「あ〜、これでこの国の王様は全裸なのか」
王 「まぁ、仕方ないさ余が美しすぎるのだから。
はっはっはっはっは……ん?」
笑っていた王様はある服に目が留まる。
それに近づき拾い上げる王。
王 「おい、この服は何だ?」
メイド 「はぁ、あまりにもふざけた服装なので、
候補からはずした服なのですが……」
王 「これは良い、これは良いぞ!」
メイド 「へ?」
王 「余の美しさを損ねない。
それでいて美しさがあり、革命的な服‥。
余はこの服を着るぞ!」
メイド 「え‥、ええぇぇぇ!!」
メイドの声がフェードアウトしていく。
ナレ 「こうして、全裸の王様は晴れて服を着ることになりました。
……が、王様の選んだ服は、
全身が眩い白で統一され、
股間に美しい白鳥が翼を広げ、
体のラインをハッキリとうつす、
ぴっちりとした全身タイツ。
以前よりまして、変態さが増した王様に、
そんな王様を見て再び頭を抱える家臣達。
今日もこの国は平和な日々を送るのでした」