魔法使いと使い魔
登場人物
・魔法使い
・使い魔
・ナレーション
ナレ 「昔々、ある世界のある場所に、
一人の魔法使いがいました。
彼はその世界の中で最も優れた魔法使いで、
今まで多くの偉業を行ってきました。
しかし、彼の偉大な力を妬み、恐れた者が、
彼を殺す為、罠にはめるのでした。
彼はかろうじて罠を避ける事が出来たのですが、
その罠に最愛の妻がかかってしまい、
瀕死の重傷を負ってしまったのです。
その日から、彼の日々はゆっくりと狂い始めたのです」
● 研究室
薄暗い研究室。
そこには魔法使いが薬を調合している。
彼を見ている使い魔。
使い魔 ｢主よ、いい加減に眠らないと死んでしまうぞ？｣
魔法使い ｢まだ大丈夫だ、この位どうって事はない｣
そう言いつつも魔法使いは、
よろけて倒れそうになってしまう。
使い魔 ｢そら見ろ、言わんこっちゃ無い。
そんな様では妻を救う前にお前が死んでしまうだろ｣
魔法使い ｢うるさい！
そんな事を言っている暇があるなら少しは手伝え！｣
使い魔 ｢我輩は『知識を与える悪魔』なのだから、
こういった労働は専門外なのだよ｣
魔法使い ｢そうだ、その通りだ。
私は妻を救う知識を得る為にお前を召喚した。
自分の魔力の半分を捧げてまで……。
だが、その知識を以ってしても妻は目覚めない！
どうしてなんだ！？｣
使い魔 ｢主よ、落ち着け。
傷は確実に癒えているのだろう？
ならば、完全に回復し、
眼が覚めるまで待てばよいではないか｣
魔法使い ｢……まさか、私の事を騙してはいないだろうな｣
使い魔 ｢くくく、バカな事を。
我々悪魔は契約者には絶対嘘をつかない。
その証拠に力を半分以上使い果たした主の傍に、
こうして大人しく仕えているではないか。
我輩は確実に『妻を救う方法』を主に教えたのだ｣
魔法使い ｢そうだ、確かに契約は絶対なものだ。
どんな悪魔とて破る事はできないはず……｣
使い魔 ｢その通りだ。
わかったのなら妻の治療を続けるんだ。
ほら、愛しい妻が待っているぞ？｣
魔法使い ｢ああ、そうだな｣
その時、研究所の外から爆発音が聞こえてくる。
魔法使い ｢……何だ？｣
使い魔 ｢主よ、少々困った事になったぞ｣
魔法使い ｢？ 一体なにが起きたんだ？｣
使い魔 ｢どうやら客人は付近の住人達らしいな｣
魔法使い ｢……何だと？｣
使い魔 ｢ふふ……、連中、『ご神体を返せ！』とすさまじい形相だな｣
魔法使い ｢ご神体？ あの竜のミイラの事か？
そんな…
アレの持つ治癒効果は彼女の傷を癒すのに絶対必要なんだ」
使い魔 ｢この村の住人にとっても、よほど大切なものらしいな｣
魔法使い ｢だからと言って、
あのミイラを村人たちに渡すわけにはいかない。
あれこそが村に伝わる疫病の源なんだ｣
使い魔 ｢だが、そんな事を言っても無駄だろうな、
彼らはあのミイラを神だと信じ、
必要としているのだから｣
魔法使い ｢あんな物を崇めて何になるんだ｣
SE 扉が壊される音
魔法使い 「？！何だ！」
使い魔 ｢主よ、連中は奥の部屋に向かっている様だぞ？｣
魔法使い ｢なんだと！？ クソ！｣
そう言って外に出ようとする魔法使い。
しかし、使い魔はそれを止める。
使い魔 ｢待つのだ｣
魔法使い ｢そこをどけ！｣
使い魔 ｢今の主は我輩との契約で力を半分、
さらに主の妻の生命維持で、
その残りの殆どを使い切っているのだぞ？
今の主はただの人同然。
向かえば殺されるのは確実だ｣
魔法使い ｢だからと言って、このまま見過ごすわけにいくか！｣
使い魔 ｢まぁまて、我輩はなにも妻を見捨てろと言っているのではない｣
SE 人々が押し寄せる
魔法使い ｢っ……本当に救えるのか？｣
使い魔 ｢勿論だとも。
もっとも、主に命を賭ける覚悟が無ければ別だがな｣
魔法使い ｢……その方法は？｣
使い魔 ｢これを飲めばいい｣
そう言って、使い魔は魔法使いに一つの薬瓶を渡す。
魔法使い ｢これは？｣
使い魔 ｢我輩が作った薬さ。
飲めば竜に匹敵する力を得る事ができる｣
魔法使い ｢なるほど、これを飲んで戦えと言うのだな｣
魔法使いはすぐにその薬を飲み干す。
使い魔 ｢理解が早くて助かるよ｣
魔法使い ｢ウゥゥ……、ぐあぁぁ！｣
魔法使いが苦しみの声を上げると、
その体が化け物の姿に変わっていく。
使い魔 ｢さぁ、急がないと妻が危険だぞ？｣
魔法使い ｢ああ、わかっている｣
そう言って外に飛び出す魔法使い。
使い魔はそれを静かに見送る。
使い魔 ｢くくく、うまくいったものだ｣
ナレ ｢魔法使いは必死になって妻を守りました。
村人達は必死になってご神体を取り戻そうとしました。
両者は戦い続け、そこには多くの村人の亡骸と、
醜く変わり果てた魔法使いが残りました。
妻の命を救う為、この先もずっと
魔法使いは懸命に治療を続けるのでした。
たとえ多くの人々が犠牲になったとしても……」
●ボロボロな研究室
戦いの影響でボロボロになった研究室。
しかし、妻の眠る水槽だけは綺麗なままだった。
SE 実験が失敗する音。爆発音など
魔法使い 「くそっ！また失敗だ！いつに似合ったらこの薬は完成するんだ！」
使い魔 ｢主よ、興味深い噂を聞いたぞ｣
魔法使い ｢噂？｣
使い魔 ｢どうやら、王国の騎士団がこの地に派遣されたらしい｣
魔法使い ｢こんな辺境に？ どうして？｣
使い魔 ｢おそらく主を退治しに来たのだろう｣
魔法使い ｢そんな、たかが村ひとつ潰したくらいで
この僕に王国の騎士団を派遣するなんて……｣
使い魔 ｢王は我輩の存在を知り、
その所有者である主を殺そうとしている｣
魔法使い ｢……なるほどな、闇の知識を得るものを処分しようというのか」
使い魔 ｢ついでに王は我輩をもその手に納めようとしている。
なにせ、我輩が持つ知識は人知の及ばぬものだからな｣
魔法使い ｢……｣
使い魔 ｢主よ、どうするのだ？
大人しく我輩を差し出すか？
それとも……｣
魔法使い ｢答えは決まっている」
使い魔 ｢くくく、だろうなぁ。
我輩がいなければ妻を救えない」
苦悶する魔法使い。
ニヤリと笑う使い魔。
使い魔 ｢主よ、今回も我が力を貸してやろう。
前回渡した薬よりも更に強力なやつだ。
騎士団の一つや二つ、わけは無いだろう｣
そう言って、使い魔はまた薬瓶を魔法使いに手渡す。
それを受け取った魔法使いは妻の方に振り向き、
魔法使い ｢絶対に救ってやるからな……｣
そう言って、外に出て行く魔法使い。
使い魔 ｢くくく……｣
ナレ ｢魔法使いは妻のために戦った。
多くの犠牲を出しながらも……。
使い魔の思惑があるとも知らず。
王国と魔法使いの戦いは長く続いた。
周辺の町や村を滅ぼし、
森を焼き払い、
後に残ったのは醜い魔物になった魔法使いと、
静かに眠る彼の妻だけだった｣
●荒野
戦いの影響で荒れ果てて、
研究所も面影が無いまでに壊れていた。
しかし、妻の眠る水槽(ベッド？)だけは綺麗なままだった。
使い魔 ｢主よ、また誰か来た様だ。
これは隣国の傭兵団だな。
狙いは土地か我々か……｣
SE 恐竜のような足音
魔法使い ｢スクウ……、ゼッタイニ……スクウ｣
ブツブツとそう呟き、
魔物と化した魔法使いは翼を広げ
研究所跡から出て行く。
SE 羽ばたき
使い魔 ｢まったく、しつこいものだ、人間は。
そんなに我輩の知識が欲しいのかな？
まぁ、今の主を倒せぬようなヤツに我輩は興味も持たぬし、
契約する気もないのだが……。
しかし、主には驚かされた。
まさか人としての意識を失っていると言うのに、
自分の妻を忘れることなく治療し続けるとは……。
いやはや、人と言うものは実に面白いものだ｣
遠くから悲鳴と爆発音が聞こえる。
その後、獣の咆哮が響く。
使い魔 ｢……だが、彼女が目覚めたとき、
はたして彼女は今の主を受け入れる事ができるかな？
血と肉にまみれ、戦いに明け暮れる魔物を愛する事ができるかな？
そして、主は拒絶された時、どれほど絶望するのかな？
楽しみだ、実に楽しみだよ｣
ナレ ｢魔法使いの戦いはこれからも続いていく。
自分の妻が目覚めるまで、ずっと、ずっと……｣