豚の生姜焼き
●女の部屋
目が覚める男。
そこは少し暗い女の部屋。
男 「うう‥、ここは?」
男の声を聞いて、台所から女がやってくる。
女 「あ‥、ああ!
よかった! もう目を覚まさないんじゃないかって‥!」
そう言って、男に抱きつく女。
女 「良かった、ホントに良かったよ‥」
黙り込む男。
女 「どうしたの?」
男 「……あの、君はいったい誰?」
女 「え?」
男 「それにここは? 僕はいったい……?
ダメだ、何も思い出せない」
女 「そんな! 私のこと覚えてないの!?」
男 「ごめん、何も思い出せないんだ……」
女 「(泣き声で)そんな‥、せっかく目を覚ましたのに、
二人で暮らせるって思ったのに……」
そう言いながら泣き出す女。
男 「ごめん、ごめんよ……。
僕のせいで君を悲しませてしまって」
女 「大丈夫、謝らないで。
記憶が無くてもアナタはアナタだもの。
こうやって目覚めてくれただけでも十分よ」
男 「うん、良かった‥つっ!」
起き上がろうとした男。
痛みで再びベッドに倒れる。
女 「ああ! 無理しないで!
酷い怪我だったんだから」
男 「怪我?
僕にいったい何があったんだ?」
黙り込む女。
しばらく沈黙。
男 「え?」
女 「……そうだ!
私、あなたの為にご飯を作ったの!
お腹空いてるでしょ?」
男 「うん、そういわれれば、
お腹が減ってるみたいだ」
女 「ふふ、じゃぁ、すぐに用意するからね」
そう言いながら台所にいく女。
台所から食事を持ってくる。
女 「はい、あなたの好きな『豚の生姜焼き』」
男 「ありがとう」
食器を受け取る男。
そのまま箸を取って食べる。
男 「(租借しながら)……ん?」
女 「どうしたの?
もしかして口に合わなかった?」
男 「そ、そんな事ないよ。
ちょっと不思議な歯応えだったけど、
とてもおいしいよ」
女 「(うれしそうに)そっか、よかった。
変わった豚肉だったから、
口に合うかなって心配したの」
男 「変わった豚肉?」
女 「うん、アナタを誘惑していたあのメス豚よ」
男 「へ?」
女 「あの女、アナタを誘惑するどころか、
アナタを盾にして……。
ホント最低な豚だったわ!」
男 「(弱々しく)ちょっと、
ちょっと待ってくれ」
女 「でも、安心してあの豚はもういないから」
男 「君はいったい何を言ってるんだ?
……うわぁ!?」
女を止めようとベッドから出ようとした男。
しかし、躓いて倒れてしまう。
その時、一緒に鎖の落ちる音が響く。
男 「え!? 足が鎖で? 何で!?」
女 「ふふふ、アナタを逃がさないためよ」
男 「あ……、ああ!?
思い出した!」
女 「ああ! 思い出してくれたのね!
私達の愛の思い出を!」
男 「君は‥お前はあのストーカー女!
あの日、僕の家に襲ってきて、
それで彼女と一緒に逃げて、それで!
(恐る恐る)……おい、彼女はどうした?」
女 「だから、あのメス豚はもういないって言ったでしょ?」
男 「豚? ……まさか!」
食べた物の正体に気づいて吐き出す男。
女 「え? 大丈夫?
やっぱり、あの肉がダメだったのかな?」
気遣って男に近づく女。
怖がって必死に逃げる男。
男 「ひぃぃ! 近寄るなぁ!」
女 「ふふふ、これからずぅっと二人っきりね」