『相互扶助のスコル』
私も、たまには女の子らしい服装をするようになった。初めは驚かれたりしたけど今では見慣れてきたというか、当たり前になってきたように思う。
5月21日は金環日食がある日だ。見れるといいな、ということを数日前に話したのを覚えている。
好きな人と一緒に見れたらいいな、とか全然思ってないんだからなっ!?
そして、今日がその当日。
早朝から、駅で岡部と待ち合わせをしていた。
服装は白のブラウスに紺のスカート。上には黒のジャケットを羽織っている。
これをたった一人で悩みながら選んだので、大変だった。せめて、子供っぽく見られることがないような服装にしたつもりだ。
・・・あいつはこの服装を見て、どう思うんだろう?
待ち合わせの時間よりも早めに駅に着いてしまったので、考え事をして暇を潰していた。暫く待っていると、岡部が来た。
「わ、悪い。待たせたか?」
と、岡部に聞かれた。
「ううん、そんなに待ってない」
私はそう言い返した。
実際には20分も待っていなかった。
「なら、良かった」
ほっとした様子で岡部が言った。
「ね、今日の服装どうかな?」
と、岡部に聞いた。
「ん?そうだな・・・・・。大人っぽくて、似合ってるんじゃないか?」
と言われた。
「そうかな?」
岡部に似合ってると言われて、嬉しかった。
「ああ。俺は良いと思うぞ」
そう言われて私は、今日この服装を選んで良かったと思った。
その後、二人で目的地へと向かった。
「もうすぐ、時間だな」
そう言ってから時間を確かめた。
「あと数分、か」
待つのが長いのか短いのか、どちらだろうか。
「見れるといいが、な」
岡部はそう言った。
「私もそう思う」
と、私も言った。
「晴れていなければ見えんからな」
晴れでも曇りでも待ち合わせをして、出かけるつもりだった。だから、結果的には代わりがないのかもしれない。
それでも見ておきたいと思ってしまうのは何故だろう。
「本当、困ったものよね」
私は、そう呟いた。
そんな下らない話をしていると、時間になった。
「紅莉栖」
唐突に、岡部に名前で呼ばれた。
「な、何?」
と、私は驚いて言う。
「その・・・。俺と結婚してくれないか?」
えっと、その。なんて言えばいいのかしら?
「し、しかたないわね。・・・あんたとだったらしてあげる」
素直には言えなかった。
それでも意味がわかればいいか。
「こういうときぐらいは素直に言ったらどうなんだ?」
と、そう岡部に言われた。
「だって、その・・・恥ずかしいし」
と私は言った。
「可愛いやつだな、お前は」
岡部に笑いながらそう言われた。
「う、うるさいっ!それ以上いうなっ」
と、岡部に言った。
嬉しさと恥ずかしさが混ざり合ったような気分。
プロポーズの言葉は嬉しかった。
素直に言いたかったのに、言えなくて。いつもと同じような感じで言い返してしまっていた。それでも、私がオーケーしたのは事実だ。
一生、忘れることのない記念日になるかもしれない。