一応、渡すものは用意した。ご丁寧に、ラッピングまでして。  作ったのはカップケーキというよりは、蒸しパンとかに近いようなもの。 クッキーと牛乳を使ってレンジで温めるだけ。 簡単に作れるし、単純に応用して作ってみただけのもの。  こ、こういうのは自分でやるべきよね。 なんて思ってやってみたのだけれど。  問題なのは、ここからだったりする。そう、一番大変なのは、ここからなのだから。  運良く、ラボには岡部一人。  つ、つまり。私が来たわけだから今は、その。二人っきりなわけで。 ええっと、どう切り出せばいいんだっけ・・・。  「えっと、今日はまだ他に誰も来ないの?」  とりあえず、聞いてみる。    「ん?いや、確かまゆりが後でラボに来ると言っていたな」  「それって、もしかしてバイトの後?」  バイトって今日は休みじゃないの? 本人からは何も聞いていないし、わからないけど。  「ああ。今日は休みの予定だったらしいんだが、急にフェイリスに頼まれたとか。今頃は大変なんじゃないか?」  バレンタインのイベントがあるから、かなり忙しいんじゃないかしら。  「へー。確かに大変そうね。で、橋田は?」  今日はイベントがあるから、橋田はメイクイーンに行きそうね。  「ダルならデートだと。由季さんと二人で、な」  「メイクイーンにも行かずに?」  橋田にしては珍しい。  「由季さんに何か言われたようだったが・・・。あれは最早、脅しだろう・・・・・」  ああ、なるほど。把握した。  「な、なんか、凄そうね。桐生さんは、バイト?」  「その通りだ。時間が出来たら、小動物と一緒に出かけるらしい」  「二人で店長さんにチョコでも買ってあげるつもりかしら」  二人が店長さんにチョコを選ぶ様子を想像したら、なんだか微笑ましく思えた。    「そんなところだろう」    「・・・岡部」 と、声をかける。  「なんだ、助手よ」  「助手じゃない」  いつも通りに言い返す。  「言いたいことがあるなら、さっさと言え」  「・・・・・これ」 と、岡部に渡す。  「なんだ、これは」  「本当に、たいしたものじゃないけど。その・・・バレンタイン、だし」  素直に言えないのが、もどかしい。  「それなら、そう言えばいい」  「で、でも」  「いいんだ。あまり考えすぎるな」  確かに、考えすぎだったかもしれない  「いいの、かな」  「ほら、こっちに来い」  「こ、こう?」  そう言って少しだけよりかかってみると、岡部に頭をなでられた。  ちょっとくすぐったい。 でも、悪くはないかも。  「少しは、落ち着いたか?」  なんて聞いてくる。 わかっているくせに。  「うん。ありがとう、岡部」  できればしばらく、このままで。 なんて思いながら、まどろみの中で私は意識を手放した。